第2回社会保障審議会福祉部会 生活保護制度の在り方に関する専門委員会 傍聴記録と解説
自薦ヘルパー推進協会本部事務局
第2回社会保障審議会福祉部会 生活保護制度の在り方に関する専門委員会が 行われましたので傍聴してきました。
この委員会の位置づけについては以下のようなものです。
生活保護制度の在り方に関する専門委員会の設置について
- 設置の背景
生活保護制度については、次のような指摘がされているところである。
ア 「社会福祉の増進のための社会福祉事業法等の一部を改正する等の法律案」 に係る附帯決議(平成12年5月10日衆議院厚生委員会。同月25日参議院国民福
祉委員会でも同旨)
「社会福祉基礎構造改革を踏まえた今後の社会福祉の状況変化や規制緩和、地方分 権の進展、介護保険の施行状況等を踏まえつつ、介護保険制度の施行後5年後を目途
とした同制度全般の見直しの際に、(中略)生活保護の在り方について、十分検討を 行うこと」
イ 「今後の社会保障改革の方向性に関する意見」(平成15年6月16日社会 保障審議会)
「生活保護については、(中略)今後その在り方についてより専門的に検討してい く必要がある」
ウ 「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2003」(平成15年6月2 7日閣議決定)
「生活保護その他福祉の各分野においても、制度、執行の両面から各種の改革を推 進する」、「老齢加算等の扶助基準など制度、運営の両面にわたる見直しが必要であ
る」
- 専門委員会の設置
これらを踏まえ、保護基準の在り方を始めとする生活保護制度全般について議論し ていただくため、社会保障審議会福祉部会の下に生活保護制度の在り方に関する専門
委員会を設置(平成15年7月28日の福祉部会において了承)。
- 当面のスケジュール
まずは、保護基準の在り方について議論を開始し、月1回程度の開催を予定。
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新聞報道などでは、不景気で生活保護が増える中、社会保障費の削減として生活保 護の 見直し、具体的には母子加算や高齢者加算についてなくす方向というのがでていま
す。
第1回目は各委員が生活保護の課題・問題点を述べたと言うことで、前回、欠席の 京極委員(社会福祉事業大学)、大川委員(横浜市福祉局ソーシャルワーカー)が
意見を述べました。
大川委員は
"保護件数が増え自治体の財政負担が増えていて、受給者の生活保障と納税者の目と いうバランスをとるのが難しい制度という認識している。
保護の基準が高いと保護世帯が自立しないという意見があるが、現場で働いている 者としては一面的な見方だと思う。問題になっている母子家庭の加算については、こ
れを引き下げても申請は減らない。女性の賃金水準が低いという構造的な問題がある からで、教育、医療、就労の支援があれば、母子家庭の多くが生活保護をとらずにす
む。
老齢加算についても、もっと年金給付がしっかりしていれば、生活保護を受けずに すむ。保護水準の切り下げでは問題解決にならない。
生活保護世帯への厳しい見方は、生活保護の仕組みが50年たって、今の時代に マッチしていない部分あるにもかかわらず、他に制度がないので生活保護に無理にあ
てはめている面からきている。
生活保護を入りやすく、出やすい制度にして、働ける人には資産要件などを緩和し て、自立の余力を残し、就労を積極的に支援する。
長期にわたって生活保護が必要な人は、年金制度などの足りない部分をサポートす る仕組みとして考える。
低成長の中で、生活保護に対する社会的合意形成をどうしていくかが重要。" という意見を述べました。
京極委員は
"年金、医療は大きな改革があったが、これまで生活保護は大きな見直しがなかっ た。 新しい福祉の理念は"自立支援"だが、生活保護の"自立"は"経済的な自立"で
あり、今の福祉で言われている"自立"とは意味が異なる。
保護費を支給すればいいということではなく、働くこととどう連携するのか。ソー シャルワークのあり方は就労の観点もとりいれてもっと幅広く考えないといけない。
福祉サービスは市町村に実施主体が移っているが、生活保護は県や国の役割が大き い。生活保護世帯の多い市町村の負担は大きくなり、財政的な調整も考えなけばなら
ない" という意見を述べました。
事務局から現行の生活保護の扶助・加算について、生活保護基準の設定の方法につ いての説明があり、そして、今後の生活保護基準の設定の基礎資料としての調査研究
の結果について報告がありました。
その後の議論は現行の生活保護基準が妥当かどうかという話が中心で、資料につい ての統計的な手法が妥当であるかどうかというような話に終始しました。
印象的な話としては、現行の生活保護の基準は"夫婦、子1人"の3人世帯モデル の消費実態をもとに設定されているが、実際の生活保護受給者の7割が単身者であ
り、3人世帯においても"夫婦、子1人"ということではなく"母、子2人"が多い ということで、委員から実態にあわない世帯モデルをもとに基準を設定することに対
して疑問視する声があがったところ、厚労省は"国民全体の平均の生活との比較の観 点から"夫婦、子1人"モデルを使っている。単純に生活保護世帯のみの状況だけで
は保護基準は議論できない。"という答弁をしていました。
最後の30分くらいで、今後の論点についての話がなされ、事務局がまとめたペー パー
第1 生活保護基準の在り方
1 現行の基準の妥当性の検証
2 多人数世帯の基準の在り方の検討
3 加算(老齢加算、母子加算)の在り方の検討
4 その他(改訂方式の在り方等)
第2 自立支援等生活保護の制度・運用の在り方
1 就労・学業等による自立に向けた支援の在り方
−生業扶助の在り方、勤労意欲の助長(勤労控除)や生活の維持向上を促す仕組み の在り方、教育支援の在り方
2 要保護者に対する専門的な援助に向けた体制の整備
3 保護施設の在り方
4 制度運営の在り方
− 稼動能力の評価・活用の在り方、扶養の在り方等
に対して、
○生活保護の扶助・加算の体系についての全体的な見直し
○財政面での地域間調整の問題
○住宅扶助も現物給付の問題(生活扶助のように一律の金額で設定してはどうか) という意見がでて、事務局が再度、整理することになりました。
このような内容で障害者に関する議論は今回はほとんどなかったです。次回は10 月14日です。
第2回社会保障審議会福祉部会 生活保護制度の在り方に関する専門委員会 内容メモ(※発言の要旨をまとめたものであり、発言記録ではありません。)
2003.09.30 15:00〜17:00
事務局
前回から異動があったので報告。社会援護局長 小島、総務課長 樋口。局長は所用により途中退席。
岩田委員長(日本女子大学人間社会学部教授)
第一回は各委員からそれぞれ生活保護制度に対して発言していただいたので、今回始めての委員からもご意見をいただく。
大川委員(横浜市福祉局ソーシャルワーカー)
横浜市で福祉職。9年間生活保護のケースワーカー、今も寿町で生活相談をやっている。そういう視点でこの委員会によばれたと思う。
保護件数が増えていて自治体の財政負担が増えている。受給者の生活保障と納税者の目とバランスをとるのが難しい制度という認識している。
保護の基準が高いと保護世帯が自立しないという意見があるが、現場で働いている者としては一面的な見方である。問題になっている母子家庭の加算については、これを引き下げても申請減らないだろう。教育、医療、就労の支援があれば、母子家庭は生活保護とらないでも良くなるだろう。女性の賃金水準が低いという構造的な問題を考えないと。
老齢加算についても、保護基準が高いというのではない。年金水準が低い。もっと年金給付がしっかりしていれば、多くのかたがなんとか生活できる。保護水準の切り下げでは問題解決にならない。部分的に見るといろいろあるが、生活保護の暮らしは楽でない。
生活保護世帯への厳しい見方は、生活保護の仕組みが50年たって、今の時代にマッチしていない部分ある。しかし、他に制度がないので生活保護を無理にあてはめるという面がある。
生活保護を入りやすく、出やすい制度にする。働ける人には、資産要件などを緩和して、自立の余力を残す、就労を積極的に支援。長期にわたって生活保護が必要な人は年金制度などをサポートする仕組みとして考える。生活保護に過度の負担をかけない仕組みが必要。
生活保護のワーカーの勤務実態が厳しい。制度が良くなっても、福祉事務所がぼろぼろ。そういうことも論議して欲しい。
保護基準の議論でなく、入りやすい出やすい仕組みづくり。低成長の中での社会的合意形成をどうしていくか。
京極委員(日本社会事業大学学長)
社会福祉基礎構造改革の中で、生活保護はその中でも基礎部分を担っている。年金、医療は大きな改革があったが、生活保護は大きな見直しがなかった。
生活保護という言葉は抵抗がある。新しい福祉の理念は"自立支援"。生活保護の"自立"は"経済的な自立"。今の福祉で言われている"自立"とは意味が異なる。保護費を支給すればいいということではなく、働くこととどう連携するのか。ソーシャルワークも就労と絡んでいかないと。ソーシャルワークのあり方、もっと幅広く考えないと。介護保険ではケアマネジメントという考えがでてきている。
生活保護は県や国の役割が多い。なんでも市町村というのは違う。大学のある清瀬市は中国残留孤児のかたが多い。生活保護の人も多く、市町村の負担も大きい。対人サービスとは違ったところがある。
岡田保護課長
資料に基づいて説明する。
- 生活保護の各扶助、加算について説明
- 他人介護加算に関する説明はなし
- 生活扶助基準の設定方法について 標準3人世帯(夫婦子供一人)を消費実態と調整して決定→第1類と第2類に区分→第1類と第2類の区分の設定。
- 一般の勤労世帯の7割が生活保護基準の目安(生活保護基準は生命維持に必要な金額ではなく、一般国民の生活水準と比べて相対的に設定)
- 昭和59年から、モデルを3人世帯(夫婦、子1人)に変更した。それまでは、4人世帯(夫婦、子2人)
- 今回の推計では3人世帯で約21万円。
もう一つの資料は、「社会生活に関する調査結果、社会保障生計調査」
家計簿の調査を行い、あわせて生活の意識等についても調査をした。
高齢者世帯が38%。母子世帯22%。障害世帯8%。
世帯人数は1〜2人が約80%。
5〜7pについては住居の状況について。8pは耐久消費財の所有状況について。
パソコン・インターネットなどの情報機器は生活保護の利用水準が低い。余暇、社会参加についても低い。
・27p以降は推計の方法、結果の説明。
後藤委員(国立社会保障・人口問題研究所総合企画部第二室室長)
27p以降の分析は生計簿(生活保護世帯ではなく一般の世帯調査)を使っている。
指標化は12について行ったが、3つの結果だけを報告している。
布川委員(静岡大学人文学部教授)
生活保護の設定、夫婦で子供1人で、就労者は1人。そういう世帯はどのくらあるのか。
一般的所得世帯の人にも生活保護世帯以下の所得で生活保護を受けていない人がいるがそれについてはどのような処理をしているのか。
岡田保護課長
実際は、単身世帯が多い。3人をモデルにするのがいいのかどうか。3人世帯は5.7%。単身が7割。
3人世帯についても多くは母子世帯で、母1人、子2人というのが多い。
生計簿の調査については低所得者を対象ということで、生活保護の所得より低い世帯も入っている。
八田委員(東京大学空間情報科学研究センター教授)
収入と消費の関係をみているが、同じ収入でも家賃を払っている人と持ち家で払っていない人がいる。そこも見ないと正確でない。
食事やインターネットについて聞いているが、高齢者にはあまり当てはまらない。もっと、属性について注意を払う必要がある。
岩田委員長
調査についてはこれから違う集計をしていく必要がある。しかし、調査の限界もある。実際の生活保護の実態は単身が7割。家計調査では単身は3割。単身世帯の問題が特殊な問題として残る。
標準世帯で考えるのではなく、単身世帯を念頭において考えることも必要かと思う。
岡部委員(東京都立大学人文学部教授)
この調査をやったものとして考え方を説明したい。
物質的なものと、社会的なものがある。この調査では、物質的なものをベースに、所得階層に応じて生活様式変わってくるのか。そこから最低生活の水準がでてくるのではないか。
データ的な限界、一般の世帯と、生活保護世帯の様式が違う部分が多い。
岩田委員長
今まではエンゲル係数で考えてきたので、最低生活の意味があった。単なる消費と収入の関係ではない。p37、38のデータは食費について見ている。これをもっと分析していたらどうか。
八田委員
消費は高齢者の場合、所得だけでなく貯蓄の取り崩しや子供からの援助も関係している。エンゲル係数のほうがいいのではないか。
後藤委員
社会活動に関する項目を調べたのは、"所得が変化することによって、消費構造が変化して、それが社会関係、人間活動にどのような影響がでるのか"を見るため。まだ、全体の報告がでていないが、そういう意図をしている調査だといういうこと。それぞれの人たちの良き生き方を探っていくための資料ということで、ここででている数字はいろんな意見があり、主眼点ではないと思う。
岩田委員長
最終的な基準を決めるという目的があるので、調査結果が有効かどうかは大きな問題。
事務局
生活保護世帯の実際は1.4人。それなのになぜ、3人世帯を基準にするのかというと、国民全体の平均の生活との比較の観点から3人モデルを使っている。単純に生活保護世帯のみの状況だけでは保護基準は議論できない。両面がある。
布川委員
生活保護より低い所得の世帯も含めた統計をとっているので、平均も下がっている。生活保護より低い世帯を除外するともっと平均はあがるのではないか。
岩田委員長
生活保護世帯、それより所得の低い世帯をいれて統計をとるのは家計調査としては普通ではないか。除外してとるということはできない。それは前提として、議論していくということで。
岡田保護課長
今日出た意見をもとに、統計は取り直す。エンゲル係数なども計算していきたい。
京極委員
生活保護、貧困の状態を見るときに、平均的なものとどれだけ乖離しているか。エンゲル係数も一つだが。現代の貧困を表す指標、何かそういうものを出して、国民にも納得できるような数字が欲しい。
岩田委員長
前回の会議の論点について事務局から集約していただいている。これについて、ご意見を。
田中委員(全国救護施設協議会会長)
全体のスケジュール表をある程度示して欲しい。これについては何月ころ議論するといったスケジュール。
岡田保護課長
座長と相談させていただきたい。
田中委員
全体のスケジュール、平成16年の7月まで。おおよそのスケジュールを出来ればお願いしたい。
岩田委員長
なるべくその方向で検討する。
後藤委員
生活扶助、加算の体系について整理、扶助、加算の意味についても整理することが必要。
根本委員(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部教授)
検討の優先順位を示して欲しい。
京極委員
加算の問題は当面議論を集中してやらないといけないとしても、扶助の体系についても考えないと。基準というと、金額がメインになってしまうが、体系じたいを見直す必要がある。
保護施設のありかた、福祉事務所・ソーシャルワークのありかたについても、仕分けして議論していく必要がある。
岩田委員長
扶助についてなのか、自立支援についてなのか整理してもう一度示したい。
八田委員
隣の都市に移ることは問題提起として、項目に入れて欲しい。
モラルハザードの問題、就業しないということもあるが、住宅の問題もある。住宅は実額で払うことになっているが、それでは基準額いっぱいまでのところに入ろうということになる。1類、2類のように住宅費も金額としていれてしまって、安い家賃に入った場合は他に使えるということでもいいのではないか。根本的な改正になるが。
岩田委員長
住宅については、私も別の点で議論したい。
地域間調整の問題については項目に入れる。
岡部委員
一般消費水準の7割ということで、生活保護基準がリンクしている。一般消費水準は経済状況で変化する。あがっている場合はいいが、現状のように下がっている場合は、生活保護基準も一緒に下げるというのは問題があるのではないか。国として保障する最低生活の基準もあるのではないか。
事務局
次回は10月14日に開催する。
岩田委員長
今日の調査結果については詳しく見ていただいて次回以降の参考にして欲しい。
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