東京都八王子市における知的障害者の毎日24時間の重度訪問介護の利用事例

ヒューマンケア協会 中西正司

  平成26年4月より、重度訪問介護の対象者が身体障害者のみに限定されずに知的障害者・精神障害者へも拡大されているが、知的障害者への重度訪問介護の24時間サービスの支給決定はこの事例が初めてだと思われるので報告する。

  Mくんは現在28歳であるが、重度の行動障害を伴う知的障害者であり、愛の手帳2度、障害支援区分5の手帳を所持し、両親が住む実家の隣にあるアパートの一室を借りて、介助サービスを利用しながらそこで自立生活を送っている。自立生活センター・ヒューマンケア協会の利用者となったのは、彼が18歳、特別支援学校を卒業した後のことである。当時は、外出時の同行が利用の主な用途で、月に1回、14時間程度の移動支援を受けていた。

  平成29年4月に、Mくんの母親よりヒューマンケア協会に以下のような相談があった。平成28年8月より入所している栃木県宇都宮市にあらう社会福祉法人瑞宝園のビ・ブライトにおいて、施設職員二名より暴行を受けたため内蔵よりの多量の出血があり近所の救急病院に緊急に搬送された。なんとか一命は取り留めたが、その後、入院中に不安定な精神状況が続き看護師も対応ができなくなったため、他の病院に転院させられたが、そこでも対応が難しく、薬を大量に投与されたり、拘束を受けたりという状況が続いていて、退院後、ビ・ブライトには戻ることに不安があるということであった。また、彼の出身地である東京都八王子市の福祉部にも相談をしたところ、クリード青梅という施設を紹介されたので、母親は施設を見学したが雰囲気が険悪で、Mくんが危険な目にあいそうであると当方に伝えてきた。(実際に、クリード青梅では11月に、施設職員からの入所者への虐待により死亡させる事件を起こした。)そのため、ヒューマンケア協会ではMくんが施設ではなく地域で自立生活が送れるように支援をしていくことを決めた。八王子市の福祉部と折衝の末、平成29年7月より重度訪問介護の一日24時間のサービスの支給の決定を得たので介助サービスをヒューマンケア協会が中心となり提供することになった。

  彼が受けた虐待について補足すると、実際に虐待をしていたのは軽度の知的障害がある男性見習い職員とその職員の指導者格にあたる女性職員の二名であった。しかし、施設長と施設の職員に警察関係のOBを雇用していることや理事に宇都宮市会議員が入っている等、組織にとって不都合な事実を隠そうとする意図が見受けられる体制であったことは間違いないと言えるだろう。また、当該施設は全国から行動障害の困難者を募り、収容する施設としても有名であったとのことである。この虐待に関する件は刑事裁判で元男性見習い職員には懲役2年・執行猶予4年、元女性職員には懲役2年4カ月・執行猶予4年が、また法人幹部には罰金刑が言い渡されたが、現在は民事訴訟にうつり係争中だ。本裁判の弁護士はJIL(全国自立生活センター協議会)の菅原顧問弁護士である。

  ヒューマンケア協会の代表でもある私は八王子市の自立支援協議会の代表も兼ねているため、地域にあるサービス事業所や相談事業所との連携を取りやすい立場にあるので20団体が連携してMくんの支援にあたることとなった。自立生活センターが介助サービスの提供に関わることで当事者主体の支援方法を各団体が見習うことになり、各団体の介助サービスレベルも格段に上がったことは、Mくんにとどまらず、他の知的障害者への支援にもつながっていくため幸いなことである。Mくんで実際に行っている当事者主体の介助サービスの提供の大きな特色は外出する際にどの介助者とどこに行くかを本人が決めるという点である。一緒に行きたい介助者の写真を選んでホワイトボードに貼り、行きたい場所を記入することで、誰とどこに行きたいか意思表示をする方式をとり、本人の意向を尊重することにしている。また、彼が食事や間食を摂り過ぎて一定の体重を越えないように、食事量の制限を行わなくてはいけなくなっている。そのため、週に3回程、母親が夕飯を母屋から彼のアパートへ運ぶことによって健康管理をしている。また、日中の活動についてであるが、現在通っている作業所から彼の介助のための専用の職員をさけないため、彼自身が介助者を連れてくれば通ってもいいという承諾を得たので、24時間の介助サービスの利用を基本とした形で作業所に通っている。通所先では、本人の興味に合わせた活動を準備するという作業所の理念のもとで、紙すきやハガキ作り、クランベリー農園での作業、間伐材の伐採と薪作りの作業を主に行っている。Mくんが通っている作業所では所長をはじめ、重度行動障害を伴う知的障害者が重度訪問介護により24時間の介助サービスを利用しながら地域での生活を送るために積極的に協力をしてくれている。このように自立生活センターが介助サービスの提供の主体となり、地域の団体が協力し合うという恵まれた地域支援の組織のもとでなら彼らも充実した人生が送れるという事例となると考えている。

この件に関する2018年2月16日読売新聞記事   PDFはこちら

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