福岡市での支援費制度の状況と今後の問題

自立生活センタードリームハート博多

はじめに

 支援費制度が平成15年4月に始まってから、およそ半年がたちました。
 九州という地方の中でも、大きな影響力を持つ福岡市における支援費の動向を報告したいと思います。

支援費制度開始以前

  前年度までの措置制度における福岡市の状況としては、郊外型の入所施設が多く、地域生活の支援体制は脆弱な物といえます。130万人を超える都市で障害者が5万人在住する実態の中、通所の施設としては、通所身体のデイサービスが各区に一ヵ所ずつの計7カ所(福岡市まちづくり条例に基づく施設)。知的の通所施設は行政主導型が5カ所、民間主導型が5カ所。児童通所施設が4カ所。一方で入所の施設は市内には7カ所という状況でした。地域の中できちんとした支援が確保できない以上、家族が支えられなくなった障害者は、市外に多数ある入所施設を受け皿としてきている実態があります。
 在宅生活の状況としては、身体障害のホームヘルプサービスにおいては、月144時間という上限がありました。この水準は全国の政令指定都市の中でも低い水準でありました。そのホームヘルプサービスの受託機関として、福岡市市民福祉サービス公社という半官半民の事業体が一元的に請け負っている状況でした。また、ガイドヘルプサービスにおいては、月8回、一回につき5時間までという制度になっていました。知的のホームヘルプサービスは、平成13年に開始されたばかりで、まだ、制度の利用が浸透していない状況でありました。
 行政主導の色合いが強く、市民運動的事業体は少なく、作業所運動や当事者運動に限られた物でした。
 そのような中、ご存じのように、これまでの措置制度から、利用契約に基づく支援費制度に変わる事になりました。支援費制度の理念としてあげられた、「当事者が選択する権利の保障」「当事者と事業者の対等な関係」「ニーズに基づく支給決定」などは、福岡においては特に妨げられていた点でもあり、福岡市における地域生活支援の充実へ向けての変化が期待されるものでした。
 しかし、それらの制度改革における希望や期待を根底から覆すような動きが出てきました。ご存じのように、今年の一月に、厚生労働省が居宅支援の支給時間に上限を設けるという情報が、インターネットなどを通じて伝わってきました。当時、我がCILドリームハート博多は、1月6日にようやくまだコンクリートがむき出しの事務所を開所したばかりで、まだ何も無い、寒い事務所で、0から活動を開始したばかりでした。不安一杯で動き始め、準備していたボランティア講座の準備に追われる中、入ってくる情報は目標と掲げる命の尊厳を守る24時間介助体勢の整備とは、かけ離れた国のあり方でした。
 ボランティア講座を無事、成功の内に終え、NHKに取り上げられたことを喜び、関わってくれたすべての人に感謝を伝える暇もなく、人として地域の中で当たり前に生きていく権利を守るために、どう、行動していくか、検討を開始しました。
 まずは、各自が、友人、知人にこのような事態が起こりつつあることを伝え、その決定が今後の地域のあり方に、どれほど悪い影響を及ぼしうるのか、伝えていきました。厚生労働省やマスコミへのファックスによる抗議、地元選出の自民党幹事長や、隣県の副官房長官他、多くの国会議員に向けて声を上げ、地元にある事務所へ、要望書を提出に行きました。
 そして、準備期間の資金がいくらあっても足りない中、事の重大性を確認し、1月16日の抗議行動に始発の飛行機に乗り込み、8名で厚生労働省へ向かいました。翌週1月20日には、さらに2名。1月27日も翌日に準備されていた課長会議への抗議行動参加のため、可能な者はすべて東京へ向かう意思を固めていました。
 その後の状況は、皆さんもご存じの通りだと思います。また、このような状況が来るのか流動的なことに変わりはありません。現在でも、検討委員会等の状況を随時確認し、権利擁護への意識の浸透を推し進めています。  それらの状況のため、事業所設立の準備は多忙を極めました。昼間は協力者の手作業で事務所の床をはり、夜は書類準備やメンバー間の話し合いで、徹夜、徹夜の毎日でした。そして、肝心の支援費支給量が10月に申請したにもかかわらず、いつまでたっても連絡がありませんでした。ようやく、支給量が決定されてきたのは3月の中旬を過ぎた頃でした。

どのような支給決定がなされたのか・・・

 そもそも、福岡市の支給決定においては、聞き取り調査の段階から違いがあります。本来、地方行政の担当官が利用希望に対して、直接調査に来るはずの聞き取り調査において、福岡市はこれまでホームヘルプサービスを委託してきた福岡市市民福祉サービス公社に調査を委託しています。そのため、サービス公社のケアマネージャーが、聞き取りに来て、その情報を元に、役所が支給量を決定する形となっており、どのような決定が降りるのかは調査にきたケアマネージャー次第というような状況です。
 そのような中、3月中旬に打ち出された支給量は、日常生活支援を取り入れていない事もあり、身体介護、家事援助が半々、もしくは家事援助中心が多め、そして、これまでと同じ一回5時間、月8回のガイドヘルプサービスという支給決定のあり方でした。時間数的には積極的に声を上げてきた当事者においても、50時間から多くても150時間程度でした。しかし、一部では180時間前後の支給決定がおりたという情報も入ってきました。それらの情報をふまえ、4月1日まで残された時間はないものの、個人交渉へと入っていきました。

個別交渉の結果、身体介護中心型の時間アップを獲得

  Aさんのケースでは

  14年度、月72時間のホームヘルプサービスを受けていました。支援費申請は、早くに出したものの、実際に支給が決定したのは、3月の後半でした。その支給決定は身体介護中心31時間、家事援助中心109時間というものでした。その後も、継続して交渉を行ない、重度の障害者にとって、必要なのは、家事援助だけではなく、必要なときに必要な身体介護が受けられることの大切さを訴え、時間延長とともに、身体介護中心型への移行を促していきました。区役所の職員に掛け合い、聞き取り調査の際にケアマネージャーに要求した時間との格差について話し合い、支給量の加算を検討する確約を得ました。しかし、実際には3月末が近づき、3月30日に行ったセンターの開所式を終えても、まだ、役所からの通知は届きませんでした。
 最終的に、3月31日の夕方になって、ファックスで確定した支給量が届きました。その結果は、身体介護中心93時間、家事援助中心62時間、ガイドヘルプサービス8回(身体介護中心48時間相当)合計203時間というものでした。まずは、その支給量で4月1日を迎えたのでした。その後、懸案事項に加味されていた家族の介護能力などの点で以前とは生活の状況が変わった点を中心に、交渉を続け5月からは、身体介護中心186時間という支給量に変更されました。ガイドヘルプサービスの面では、基本的には月8回までなのですが、定期的な通院が必要な際には医療機関の継続証明書などを提出すると、加算が認められるようになっております。通院証明書を提出した結果、月5回(身体介護中心30時間相当)の加算が認められました。

 Bさんのケースでは

  自立生活センターの開所と平行して自立を進めた結果、3月31日に出た支給量は身体介護中心284時間30分、家事援助中心41時間、ガイドヘルプサービス8回(身体介護中心48時間相当)合計373時間30分というものでした。これには、夜間巡回加算として1日9回、1回につき30分という支給が盛り込まれていました。4月からの交渉では、家事援助中心の41時間を身体介護中心への変更が認められ、合計、身体介護中心325、5時間とガイドヘルプサービス8回(身体介護中心48時間相当)合計373時間30分という支給量になっています。
  また、他の加算例では夜間巡回だけではなく、二人介護も必要な人には支給が決定される例が認められています。

 Cさんのケースでは

  平成15年の始めに市外から、福岡市に転入してきました。支援費制度前の支給時間は月48時間でした。その後3月31日に送られてきた決定時間では、家事援助中心62時間、身体介護中心62時間、ガイドヘルプサービス8回(身体介護中心48時間相当)合計172時間という支給量へ変更されました。その後、障害の進行とともに障害手帳も一級に変更され、8月からは、身体186時間、ガイドヘルプサービスも通院証明書提出とともに、月16回(96時間相当)へと、変更決定されました。

 Dさんのケースでは

  前年までの利用実績はあったものの、よいヘルパーと出会えることなく、ヘルパーの派遣に拒絶反応を示していました。聞き取り調査も的確にされたとは言い難い状況の中で、当初決定された支給量は月10時間というものでした。その後、自立生活センターとの相談を通して、きちんと再申請をした結果、身体介護中心124時間、ガイドヘルプサービス8回(身体介護中心48時間相当)合計172時間という支給時間に変更されました。きちんとした聞き取りがなされたとは思えない状況の中で、支給量が月10時間というケースは、これ以外でも数例報告されています。

知的障害における大きな変化

  知的障害のホームヘルプサービスは、福岡市ではまだ、2年前に始まったばかりでした。今回の支援費制度でも、当初は重度にあたるA判定のみでしたが、要求が実り、5月からはB判定の障害者にも支給が決定されました。そして、この度自立したB判定の知的障害者に、身体介護中心124時間という支給時間を獲得しています。ただ、一般的には、勘案事項もからみ、48時間から93時間の上限という支給量の決定が多い実情です。
  また、今後、10月からはA判定の障害者のみが対象となっていますが、ガイドヘルプサービスが開始されることとなり、今後の知的障害者における社会参加の支援体制の拡充が期待されるところとなっています。

児童のホームヘルプサービスも拡大へ

  児童のホームヘルプサービスも始まり、5月からは全身性と視覚の障害児を対象にガイドヘルプサービスも開始されました。知的の児童においても10月から開始される運びとなりました。その中では、家事援助中心15時間、身体介護中心101時間という支給量が、保護者が同居しているという条件の中でも決定されています。また、一人派遣では、本人や介助者の安全の確保が危惧されるケースにおいては二人派遣も認められ、加算されることが認められる事を確認しています。また、夏休み、冬休みのみの加算が認められるケースもあり、一例では45時間の期間限定加算が認められていました。
  しかし、知的、児童の法区分においては、支給量決定の際に家族の状況が勘案されるため、本来の支給量の半分に抑えられることもあり、どうしても本来のニーズに対して少なめの支給と感じられます。また、指定事業者の中でも、知的や児童の指定は申請していない事業者もあり、また、指定を受けていても実際に取り組み始めている民間事業者は自立生活センター以外では少ないのが実情のようです。
  そのような現状ですが、知的障害においても、24時間の介助が必要な事実は歴然としており、今後の地域生活支援の推進、脱施設のためにも、現状に甘んじているわけにはいきません。今後情報の周知、制度利用の促進、そして地域の中で安心して生活することの出来る在り方の構築を踏まえて、より一層の声を上げていく事を推進していこうとしています。

日常生活支援は、10月から開始されるものの・・・

  福岡市では全身性介護派遣制度の創設を幾度と無く交渉を行ってきていました。しかし、平成14年までに実現することなく、支援費制度開始当初は日常生活支援という類型は導入されていませんでした。しかし、交渉を継続してきた成果として、この10月からやっと開始される運びとなりました。事業者説明会などでの情報をトータルすると、現在の支給時間に上乗せする形で導入されるとのことです。ただし、上限が設けられ、一日8時間、月248時間ということです。この上限設定は市の職員が公言しており、決して認められるものではなく、CILドリームハート博多として、市障害福祉課と24時間/日の交渉に入っています。
  日常生活支援のヘルパー養成に関しては、これまでのところ、行政主導で2回、開催されており、2ヶ月に1回のペースで行われていく模様ですが、民間事業者での研修の指定は未整備の状態のようで、今後交渉に入っていきます。

情報を周知することの必要性

  このような、大きな変化が起きている中、実際には当事者、当事者家族への認知度は、まだまだあまり高くないのが実情ともいえます。制度そのものの変更についていけなかったり、関心を持っていても、どのように手続をすればいいのかわからない、支給量に不満をいだいてもどのように交渉していけばいいのかわからないという声が多く上がっています。それらをふまえて、養護学校や、家族の会への支援費制度説明会を随時行い、利用を促進していきました。

県内各市町村における地域格差の悲しい現実

  福岡市においては、以上のような状況ですが、近隣の市町村においては、地域格差の大きい話が聞こえてきます。福岡市でなら150時間以上の支給が見込まれそうな障害者であっても、50時間に充たない支給量のケースが数多く聞かれています。重度の身体障害がありながら、月24時間ということもまれではありません。また、制限条項として「深夜帯を除く」という項目が入ってきたりしています。変更申請を出しても、財政面やこれまでのボランティアによる生活実態を口実として、簡単には受け付けようとしません。変更申請に医師の意見書等を必要とするケースも多く、また、変更加算が認められたケースにおいても、「○月のみ」、「○月から○月まで」、という制限条項が入ってきたりしており、厳しい状況となっています。
   知的障害児のホームヘルプサービスにおいて、どれだけ、自立の支援が必要なのだから、身体介護が必要と訴えても、聞く耳を持ってくれず、必ず月30時間家事援助が出てくるケースや、多動の利用者においても、身体介護を伴わない支給決定がなされたケースなどもあります。また、移動介護に関しては親がするべきだという答えが返ってくるため、支給さえ認められない自治体もあります。

今後の課題  

  自立生活センターとして、支援費制度移行とともに介助サービス部門に取り組めた点は、様々な問題も山のように生まれましたが、利点の多いものではありました。しかし、今、あらためて、「当事者主体である」というところにあらゆる面で、立ち返る時期を迎えています。確かに、ヘルプは必要に応じて、当事者が選択して受けられる環境には近づきつつあります。しかし、その実際の場面において、利用者と介助者の関係が対等で無ければ、真に当事者主体の生活を送れるものとは成り得ません。個人の部分では、地域の中で自立し、介助を受けながら生活を送る中で、あらためて困難にぶつかり、自分自身をエンパワメントする必要性に迫られています。組織としては、自立を促し、自己選択する権利の重要性を広めていく上での強固な意識の形成が求められています。また、介助者側へ、「自立の理念」の理解の浸透を進め、心のバリアフリー、さらには、健康状態にかかわらず、自立を共に考える人と人とのつながりを形成していく時期にも来ています。
 そして、周囲に目を向けると、地域格差、情報格差の広がる中、情報が行き届かず苦しんでいる障害者のところへ制度をつなぐ役割が緊急の課題となっています。 支援費制度そのものの理念は一理あるものであり、当事者主体の在り方の外枠は整ったものといえます。そこに魂を入れていくのは、今後の当事者と介助者の課題であり、心豊かな地域生活の具現化からもたらされるものと思われます。

博多 イ ジョンソン

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