推進会議総合福祉部会が新法の骨格提言を取りまとめました

障がい者制度改革推進会議総合福祉部会は、8月30日に「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」を取りまとめました。

障害者総合福祉法(仮称)については、すでに「障害者自立支援法違憲訴訟原告団・弁護団と国(厚生労働省)との基本合意文書」(平成22年1月7日)や「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」(平成22年6月29日閣議決定)で、平成25年8月までに施行する方針が決まっています。このため、平成24年1月から始まる通常国会に法案を提出できるように、この骨格提言を踏まえて厚生労働省が法案作成作業を開始しています。

注目点は以下のとおりです。

 

▼重度訪問介護をパーソナルアシスタント制度に改組するなどの訪問系サービスの再編(p35〜p37)

T.障害者総合福祉法の骨格提言

T−4 支援(サービス)体系

A.全国共通の仕組みで提供される支援

5.個別生活支援

【表題】@重度訪問介護の発展的継承によるパーソナルアシスタンス制度の創設

【結論】

○ パーソナルアシスタンスとは、

)利用者の主導(支援を受けての主導を含む)による

)個別の関係性の下での

)包括性と継続性

を備えた生活支援である。

○ パーソナルアシスタンス制度の創設に向けて、現行の重度訪問介護を充実発展させる。

○ 対象者は重度の肢体不自由者に限定せず、障害種別を問わず日常生活全般に常時の支援を要する障害者が利用できるようにする。また、障害児が必要に応じてパーソナルアシスタンス制度を使えるようにする。

○ 重度訪問介護の利用に関して一律にその利用範囲を制限する仕組みをなくす。また、決定された支給量の範囲内であれば、通勤、通学、入院、1日の範囲を越える外出、運転介助にも利用できるようにする。また、制度利用等の支援、見守りも含めた利用者の精神的安定のための配慮等もパーソナルアシスタンスによる支援に加える。

○ パーソナルアシスタンスの資格については、従事する者の入り口を幅広く取り、仕事をしながら教育を受ける職場内訓練(OJT)を基本にした研修プログラムとし、実際に障害者の介助に入った実経験時間等を評価するものとする。

【説明】

重度訪問介護を発展させ、パーソナルアシスタンス制度を創設するにあたっては、

1)利用者の主導(ヘルパーや事業所ではなく利用者がイニシアティブをもつ支援)

2)個別の関係性(事業所が派遣する不特定の者が行う介助ではなく利用者の信任を得た特定の者が行う支援)

3)包括性と継続性(支援の体系によって分割され断続的に提供される介助ではなく利用者の生活と一体になって継続的に提供される支援)

が確保される必要がある。

現行の障害者自立支援法における重度訪問介護の対象者は、「重度の肢体不自由者であって常時介護を要する障害者」(5 3)に限定されているが、障害の社会モデルを前提とする障害者権利条約及び谷間のない制度をめざす障害者総合福祉法の趣旨を踏まえれば、このような機能障害の種別と医学モデルに基づく利用制限は見直しが必要である。

「身体介護、家事援助、日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守り等の支援及び外出介護が、比較的長時間にわたり、総合的かつ断続的に提供されるような支援」(平成19(2007)年2月厚生労働省事務連絡)を難病、高次脳機能障害、盲ろう者等を含む「日常生活全般に常時の支援を要する」(同)すべての障害者に対して利用可能とする。

特に、重度の自閉症や知的障害等により行動障害が激しいなどの理由で、これまで入所施設や病院からの地域移行が困難とされてきた人たちが、地域生活を継続するためには、常時の見守り支援を欠かすことはできない。また、現行制度においては重度訪問介護の対象となっていない障害児についても対象とする。

以上に鑑みると、パーソナルアシスタンス制度は、各障害特性やニーズから来るキャンセルや待機などへの対応等、利用者にとっては柔軟な利用ができ、かつ報酬上も評価される仕組みにすべきである。

また、パーソナルアシスタンスは、利用者の主導性の下、個別の関係性の中で、個別性の強い支援に対応できるかを踏まえることが求められるため、資格取得のための研修は、現在の重度訪問介護研修よりも従事する者の入り口を幅広く取り、仕事をしながら教育を受ける職場内訓練(OJT)を基本にしたものとする必要がある。

 

▼支給決定では協議調整モデルが導入されます(p21〜p26)

T.障害者総合福祉法の骨格提言

T−3 選択と決定(支給決定)

【表題】支給決定のしくみ

【結論】

○ 支給決定のプロセスは、原則として、以下のとおりとする。

1.障害者総合福祉法上の支援を求める者(法定代理人も含む)は、本人が求める支援に関するサービス利用計画を策定し、市町村に申請を行う。

2.市町村は、支援を求める者に「障害」があることを確認する。

3.市町村は、本人が策定したサービス利用計画について、市町村の支援ガイドラインに基づき、ニーズアセスメントを行う。

4.本人又は市町村により、申請の内容が支援ガイドラインの水準に適合しないと判断した場合には、市町村が本人(支援者を含む)と協議調整を行い、その内容にしたがって、支給決定をする。

5.4の協議調整が整わない場合、市町村(または圏域)に設置された第三者機関としての合議機関において検討し、市町村は、その結果を受けて支給決定を行う。

6.市町村の支給決定に不服がある場合、申請をした者は都道府県等に不服申立てができるものとする。

○ 支給決定について試行事業を実施し、その検証結果を踏まえ、導入をはかるものとする。

 

 

▼財政のあり方の項目では、長時間の訪問系サービスのための財政措置が重要です(p21〜p26)

U.障害者総合福祉法の制定と実施への道程

U−4 財政のあり方

(3)長時間介助等の地域生活支援のための財源措置

【表題】長時間介助等の地域生活支援のための財源措置

【結論】

○ 国は、長時間介助に必要な財源を確保する。

○ 地域移行者や地域生活をする重度者に関する支援サービスに関して、他の支援サービスの場合における負担と支給決定のあり方とは、異なる仕組みを導入する。

○ 国は、地方自治体が、国庫負担基準を事実上のサービスの上限としない仕組みを財源的に担保するとともに、地方公共団体の財源負担に対する十分な地方財政措置を講じる。

【説明】

どんなに重度の障害者であっても、障害者権利条約第19条の「他の者と平等な選択の自由を有しつつ地域社会で生活する平等な権利」を実現することが求められる。長時間介助も、その人の障害特性やニーズ、医療的ケアの必要度等に応じて、日中の介助のみが必要な人から、24時間のパーソナルアシスタンスが必要な人まで、必要とされる介助内容は様々である。ただ、どんなに重度の障害者でも、またどこに住んでいても、地域社会で暮らす権利が満たされる為に必要な支援量は提供されるべきである。上記を満たし、各人のニーズに応じた支援が適切に届けられるために、財源を確保して支援することが必要である。

地域移行者の中には、出身自治体と居住自治体が分かれているケースがくない。住民票がある住所では地域生活が出来なかったため、入所施設や病院に長期間、社会的に入院・入所している、という住民票住所と実際の居住地が異なるケースなどである。こういう人が地域移行した場合、移行先が住所地となるため、施設や病院に近い自治体、あるいは重度者の地域移行を先進的に進めてきた自治体は、過剰な負担を強いられる可能性がある。これが、地域移行を阻害する要因の一つでもある。

そこで、施設・病院から地域移行する人や親元から独立して別市町村で暮らす障害者については、出身自治体が一定年度の財政負担(恒久的かどうかは検討)をした上で、居住自治体での支給決定をすることも検討してはどうか。例えば、入所施設や病院への入院・入所者の地域生活移行等を促進するため、居住地と出身地で費用を負担してはどうか。(下図参照)

ただし、入所施設やグループホーム、ケアホーム利用者の自立支援給付についての現行の居住地特例は当面継続しつつ課題を整理し、施設・病院等から地域移行する人等の扱いと併せて、そのあり方を慎重に検討することが必要である。

また、現状では国庫負担基準という形で実質的な予算上限を設定しているため、なからぬ自治体が、国庫負担基準を事実上のサービス上限としている。はじめに予算ありき、ではなく、まずは障害者のニーズを中心に検討すべきである。そのニーズを積み上げる形で、必要な支給決定がなされる必要がある。障害者総合福祉法においては、障害者の実態とニーズに合わせ、「地域で暮らす権利」を保障するための財源を確保すべきである。

したがって、国庫負担基準については次のような考え方が考慮されるべきである。

(1)地域で生活をする重度の障害者について、現行の国庫負担基準以上の負担は国の負担とすることを原則とする。ただ、そのことが無理な場合、例えば都道府県での基金化も含め市町村負担を大幅に引き下げる対応を考えるべきである。

(2)ホームヘルプについては、8時間を超える支給決定をする場合は、8時間を超える部分の市町村負担は5%程度に下げ、都道府県が45%を負担し、8時間以内の支給決定をする場合および8時間以上の支給決定の場合の8時間分については、市町村負担を26%とし、都道府県負担の1%を確保して使うようにする案を提示した。(下図参照)

なお、ホームヘルプにかかる国の負担割合は現行5割であるが、地域格差なく、必要とされるサービス提供が保障されるためには、現行以上の国の負担割合を検討すべきである。

上記の図で8時間を境にしている理由は、重度訪問介護の区分6の国庫負担基準が約40万円で、月212時間程度の単価となり、1日当たり7時間超であることから、8時間を境にしている。

 

もちろん、他の部分もすべて重要です。障害者自立支援法に代わる新法の土台となる提言ですから、ぜひ全文を読んで把握してください。

なお、骨格提言の内容がそのまま新法に反映されるとは限りません。たとえば、総合福祉部会の各作業チームの検討報告に対して、厚労省は軒並み消極的なコメントを提出しています(第12回部会第15回部会)。

また、法案作成過程の各省協議(厚労省と他省庁との折衝)の段階で、他省庁から消極的な反応が示される可能性もあります。特に予算の大幅な増加を伴う制度変更については、その分だけ厚労省障害保健福祉部が所管する他の予算を削らないと認めてくれないのが、財務省の基本スタンスです。このほか、全国知事会、全国市長会、全国町村長会などの地方六団体の意向にも配慮しなくてはなりません。

このような制約条件の下で、厚労省は新法の法案をつくらなければなりません。ですから、来年の通常国会に提出される法案が、骨格提言よりも大幅に後退する危険性もあります。

ただし、たとえば長時間の訪問系サービスのための財政措置は、国の予算増を回避しながら24時間保障ができるような仕掛けになっています。よって、個々の重要テーマについて、骨格提言に沿った内容で法制化されるように、障害者団体から厚労省や政党に対して働きかけていく必要があります。

 

■障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言(厚労省HP)

http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/sougoufukusi/dl/110905.pdf

■障がい者制度改革推進会議総合福祉部会(厚労省HP)

http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/sougoufukusi/index.html

 

 

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